こんにちは。

飯田橋のカウンセリングオフィス、サードプレイスのナカヤマです。

 

複雑性PTSDは、子ども時代の虐待やドメスティックバイオレンス、拷問や戦争体験のような、長期・反復的な対人関係のトラウマに起因する臨床上で認識された診断名です。その症状は主にトラウマ由来のPTSDの症状に加えて、自己認知の低下、感情調整や対人関係上での様々な困難、があげられます。

世界保健機関 (WHO) が発行する、疾病及び関連保険問題の国際統計分類(すべての病気の診断名が一覧で載っているガイドブックみたいなもの)の2019年改訂の第11版(通称ICD‐11)で公式の疾患名として認められる予定です。そうなるといよいよ本格的に「疾病」となる複雑性PTSDですが(そして診断名がついたからこそ治療もあるのですが)、そして今さらこんなこという私もアマノジャクですが、複雑PTSDが「病気」か、というとそうともいいきれないものもあるのです。

これはPTSDにも当てはまるところで、PTSDの症状(特にフラッシュバックや生々しい悪夢などの侵入症状)は「気が狂うかもしれない」(もしくは、「すでに狂ってしまった」)みたいな恐怖を感じるほどのものですが、一方でそれらは「異常な体験による正常な反応」ともいわれています。すなわち、トラウマ的出来事のような人の通常の認識を超えるような体験をした場合、その後にPTSD症状のような反応があることは、人として(または生物として)当然であるということです。

症状がある、ということはその人の過去は「まだ終わっていない課題(unfinished work)」があるのだと教えてくれている、と考えることができます。

複雑性PTSDの話に戻りますが、10年くらい前の研究があります。幼少期のトラウマを抱えた女性98人を対象とした、「現在困っていること」に関する調査(Levitt  Cloitre,2005)です。その中で、女性たちが困っていることのナンバー1は対人関係の問題(67%)で、その次にいずれかのPTSD症状(59%)、感情の問題(31%)と続いています。また、その他の問題として見過ごせないのが自殺未遂の経験(45%)でした。

このような研究などから複雑性PTSDのための認知行動療法であるSTAIR(感情調整と対人関係のスキルトレーニング)は生まれた経緯があって、今でもSTAIRを行うかどうかは診断の有無、というより、患者さんのニーズに従って判断することになっています(そうしなさい、と当のクロワトル先生も言っています)。すなわち過去に逆境的な対人トラウマの体験があって、現在、感情や対人関係に困難を感じていればSTAIRを行ってみる、ということです。

そんなわけで、複雑性PTSDの診断がつきそうか、またその症状は軽症なのか、中等度なのか、重症なのかを調べる自記式尺度や構造化面接(翻訳中)もあるにはあるのですが、サードプレイスのセッションの中では、チェックシート(下記はチェックシートの一部です)を使ってざっとニーズの洗い出しをすることで治療につなげています。

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□ 自分がどんな感情を持っているのか、はっきりと分からない

□ 感情が怖い、感情を感じることが怖い、感情は危険なものだ

□ 気持ちが「良い」か「悪い」かは分かるが、実際にどのような感情を持っているのかはわからない

□ 感情を避けたい、感情から逃げ出したい

□ 感情が麻痺している、「何も」感じない

□ 自分は他の人とは違うと感じる

□ 人に苛立ちやすい

□ 私に何が起こったのか、私が何をしたのかが知られたら、誰も私を大切にしてくれなくなる

□ 多くの人は信用できない

□ 自分にとって大切なことを人前ではっきり言えない

□ 人との付き合いを避ける

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このように、STAIRは診断中心というよりも、問題中心で実施することが多いのですが、先ほどの研究結果をみながら私は内心このように感じていました。

意外と、PTSDの症状で困っている人が多いんだな。

それは、やっぱりいつかは過去に向き合って、決着をつけなければならないってことなのだと思います。

つまり、WorkをFinishする必要があるってことです(ルー大柴風にいうと)。

 

 

●STAIR /NSTの本が出ます☞複雑性PTSDの心理療法

ではまた!

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投稿: 飯田橋 サードプレイス

東京千代田区飯田橋にあるカウンセリングルーム、サードプレイスのブログです。

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